ドアの開いた音がして、尚吾がペットボトルを持って入ってきた。びくっと身を震わせ、誠は頬を布団に擦りつけた。
「水だ、飲め」
 冷たいペットボトルを首筋に当てられ、誠はおそるおそる顔を上げた。ぼろぼろと涙をこぼしている誠の顔を見て、尚吾がぎょっとしたように身体を硬くする。
「兄さん…身体が変なんだ……」
 たえられずに尚吾にそう告げてしまう。尚吾はうろたえたように目を逸らし、ベッドの縁に腰を下ろすと、ペットボトルの蓋を開けた。
「飲んで…」
 口元に飲み口を差し出され、促されるままに少し顔を上げ水を嚥下した。飲み下せない分が唇の端からこぼれてしまう。まだ唇も震えていて言うことをきかなかった。
「身体が熱いのか…」
 困った顔で尚吾が呟き、逡巡した後にゆっくりと手を伸ばしてきた。尚吾が覗きこむように身を屈めてくる。
「…っ」
 尚吾の手がうつぶせになっている誠の下腹部へ伸び、勃起している股間を揉む。布越しに数度刺激を受けただけで、びくびくっと震え誠は射精していた。
「はぁ…っ、はぁ…っ」
 こんなのは初めてだった。こんなふうに少し触られただけでイってしまったのも。だが一度達しても身体の火照りはまったくといっていいほど治まらず、そこはガチガチに硬くなったままだ。
「嘘…やだ、…どうして…」
 痛いほどに張り詰めている下腹部に恐れを感じて、誠は尚吾に手を伸ばした。
「俺、おかしい…、助けて、治まらないよ…」
 泣いて尚吾の胸に抱きつくと、尚吾がごくりと唾を飲みこむのが分かった。
「誠…」
 たまらないほどの熱さを感じ、誠はネクタイを弛め、シャツのボタンを外そうとした。だが指先がぶるぶる震えて上手くボタンが外せない。上手く動かない自分の指先にまた涙がこぼれてしゃくりあげてしまった。
「外れない…外れないよ…」
 自分でも何がそれほど悲しかったのか分からないが、感情のコントロールがまるでできなくなっていた。見ていられなくなったのか尚吾が手を伸ばし、ボタンを外してくれる。シャツを全開にして素肌が外気にさらされると、尚吾が息を震わせて自分を食い入るように見つめてくる。
「取れない…」
 もはや窮屈でたまらないズボンのベルトも外そうとしたが、指先がわななくだけでどうしても動かない。怖いほどに尚吾はずっと自分を見ているのに、どういうわけかいつものように先回りして行動してくれなかった。
「兄さん…やって…」
 涙で濡れた目で訴えると、尚吾が何かを耐えるように自分を見ていた。尚吾はまだ自分を怒っているのだろうかと思うと、悲しくてまた涙があふれてくる。
「いいよ…やってやる」
 決意したように低い声で尚吾が呟き、ベルトも外してくれた。尚吾の声は硬く強張っていたから、きっと相当怒っているのだろう。こんなふうに訳の分からない状態になってしまった自分に呆れているに違いない。
 尚吾の手がズボンを抜き取り、床に落とす。下着の上からでも下腹部が膨らんでいるのがありありと分かった。すでにそこは恥ずかしいくらいに染みを作っていて、誠は息を荒らげた。
「あ…っ」
 今度は頼む前に尚吾が下着に手をかけ、ゆっくりと引きずり下ろしてくる。目の前で糸を引く下着に真っ赤になり、誠はベッドに膝をつく尚吾を見上げた。
「誠…、すごい濡れてる…」
 熱を帯びた目で性器を見つめられ、急に恥ずかしくなって誠は身体を隠そうとした。だがその前に尚吾の手が勃起している性器に絡まり、上下に扱き上げてくる。
「ん…っ、ん…っ、あぁ…っ」
 尚吾の手に扱かれ、気持ちよくておかしな声が飛び出した。長い指を根元から動かされ、ぬちゅぬちゅといやらしい音が響く。
「あ…っ、あ…っ、気持ちい…い…」
 シーツの上で悶えながら、鼻にかかった声を上げた。ふいに尚吾が身を屈め、下腹部に熱い息がかかったと思う間もなく、自分の性器が生ぬるいものに包まれたのが分かった。
「兄さん…っ、ひ…っ、やぁ…っ、あっ、あっ」
 驚いたことに尚吾が自分の勃ち上がったモノを口に銜え、上下させていた。たまらないほど気持ちがよくて、腰が一気に熱くなる。尚吾がそんなことをするなんて思いもしなかったから、頭がパニックになり、全身が震える。
「駄目、駄目…っ、で、ちゃう…っ、放して…っ」
 あまりの快楽の深さにすぐにでも射精してしまいそうになり、誠はおぼつかない手足で必死に尚吾を引き離そうとした。だが尚吾は躊躇することなく舌で誠の性器を舐め上げ、誠の身体を熱くした。
「ひ…っ、ンッ、んやぁ…っ、あぁ…っ」
 さして愛撫されるほどもなく、誠は甲高い声を上げて、また白濁した液を吐き出してしまった。まるでジェットコースターのようだ。快楽の波が一気に押し寄せ、爆発してしまった。
「はぁ…っ、はぁ…っ、あ…っ、ひ…っ」
 激しく胸を隆起させ絶頂したばかりの激しい息遣いをしていると、尚吾がようやく口を離して右手にどろりとした液体を吐き出した。
「あ…あ…」
 尚吾の口からあふれ出た液体が自分の精液だと知り、全身がわなないた。尚吾は見たことがないような興奮した顔をしていた。手に出した精液を眺め、唇に残されたものを味わうように舌で舐める。その表情が淫靡なほど艶かしくて釘付けになる半面、いけないものを見てしまった恐ろしさで息をするのも忘れる。
 尚吾が精液で濡れた手をつうっと動かした。
「ひ…っ」
 濡れた手が尻のはざまに滑り、誠はびくりとして身を仰け反らせた。尚吾の指が蕾をくすぐり、中へと進入してきたのだ。びっくりして身を起こそうとしたが、それを遮るようにまた前を扱かれた。
「に…いさん…っ、あふ…っ、ひ…っ、やだ…っ、何…?」
 腰を身じろがせ、誠はぼうっとした頭で息を乱した。先ほどからずっと全力疾走を続けているみたいに息が苦しい。尚吾が中に入れた指をくっ、と動かす。とたんに電流でも走ったみたいに深い快楽が走り、誠は甘い息を吐き出した。