「いけないことをした子には、お仕置きだよ」
アレクの耳朶に、レナードの熱い吐息が触れる。
なにが『いけないこと』なのか、アレクにはまったくわからなかった。瑞樹に電話をかけようとしたことが、そんなにいけないことだったのだろうか。でも、どうして?
アレクはどうしてこんなにレナードが怒っているのか、まったくわからなかった。
握りしめた受話器を抜き取られ、硬直した身体を抱き上げられる。
「レ、レナード……!」
口元は笑みを刻んでいるのに、目は笑っていない。菫色の瞳は、レナードの感情を映すように紫がかった藍色に変化していた。
――怖い……。
アレクに怒りの目を向ける人間は今までにも数え切れないほどいたが、レナードから向けられた今ほど、恐ろしいと思ったことはない。
アレクは怯えた。
他人の怒りを恐れるのはしょっちゅうだった。でもこれは、そんな恐怖とは違う。
この世でただ一人、頭が悪くて不細工で、とろくさいアレクを好きだと言ってくれる人を怒らせてしまったのかもしれない、その恐怖だった。
レナードがいなくなったら、アレクにはもう誰もいない。レナードだけが、なんの取り柄もないアレクを好きだと言ってくれた人なのだ。その人を、こんなふうに怒らせてしまうなんて……。
アレクを抱き上げ、レナードは寝室に向かう。まだ薄明るい寝室で、硬直したアレクを、ベッドに無造作に放り投げた。
息もろくに吸えないほど怯えたアレクの着衣を、レナードが無言で剥いでいく。
「ごめんなさい……ごめんなさい……っ、レナード……っ」
大好きな人を怒らせてしまった恐怖に、アレクの目に涙が滲んでくる。
あっという間に、涙は大粒の雫となって、アレクの頬を滑り落ちた。
レナードがどうして怒っているのか、アレクには全然わからない。わからないが、レナードが怒るのなら、アレクはもう『いけないこと』なんてしない。
しないから、怒らないで。
「ごめ……なさい……お、怒らないで……怒らないで……レナード……」
「怒ってなどいないよ、アレク。わたしの可愛い子に怒るものか。ただ少し、お仕置きをするだけだ。いけないことをした子には、お仕置きをするものだろう?」
レナードは、アレクの大好きなやさしい微笑を浮かべて、頬を掌で包む。
温かな掌に愛撫するように頬を撫でてもらったのに、アレクはブルリと震えた。
レナードは笑っているのに、笑っていない。こんなにレナードを恐ろしく感じたのは、初めてだった。
――絶対に怒ってる……。
アレクはしゃくりあげ、微笑むレナードを見上げた。許しを請うように腕を伸ばすが、逆に両手首を取られ、ベッドに押しつけられる。
「お仕置きだと言っただろう?」
アレクは涙に濡れた目で、レナードをじっと見つめた。
今からされるのは、お仕置き。
いつものような、大好きな人との愛に満ちた行為ではない。
――お仕置き……だから……。
アレクの身体から力が抜けた。
涙を零しながら、まるでなにかに縛められたように両腕をベッドに押しつけたまま、レナードに縋りつくのを諦めた。
自分が悪いのだから。
これは、お仕置きなのだから。
スンスンと鼻を鳴らしながら、アレクは裸のみじめな身体をレナードに捧げるように晒した。
レナードが満足そうに目を細める。
「いい子だ」
再び、レナードがアレクの頬をやさしく撫でる。
これでよかったのだ、とアレクはホッと息を吐き出した。正しいことをしたら、レナードにやさしくしてもらえる。
次はなにをしたらいいのだろう。どうしたら、レナードの許しを得られるのだろう。
なにが悪かったのかもわからないまま、アレクはただ一人の人に許しを請うために、ゆったりと頬を撫でてくるレナードをじっと見つめていた。
「んぅ……っ、っ!」
もう何度目かわからない挿入に、アレクは呻いた。続けざまに与えられた快楽のせいで、頭の芯がぼぉっとしている。
けれどまだ、レナードにしがみつくことは許されていない。
まるで人形のようにベッドに横たわり、アレクはレナードの欲望を受け入れていた。
こうしていると、自分がレナードの抱き人形になった気分になる。愛情もなにもない、単なる欲望の捌け口になっているような、そんなみじめな気持ちでいっぱいになり、アレクは喘ぎながら、涙を零した。
――レナードが好き。レナードだけが好き……。
アレクにはレナードしかいない。両親にだって疎まれてきたアレクを、愛して、可愛がってくれたのはレナードだけだった。レナードに捨てられたら、アレクには誰もいなくなる。
瑞樹やウィルたちも大切だった。でも、とてもレナードの代わりにはなれない。
――だってきっと……本当には好かれていない……。
あんなにひどいことをしたアレクに瑞樹はとてもやさしくて、アレクはそのやさしさを信じたかったけれど、やっぱり信じきれない。
自分だったらきっと、許せないから……。
アレク自身だって、自分自身を好きになれないのだ。こんなアレクを、誰が好きになってくれるだろう。友達になってくれるだろう。
でも、レナードは違う。レナードはどんなアレクでも愛してくれた。大好きだと何度も言ってくれた。
小さな頃から、レナードだけだったのだ。
ほかには誰も、アレクを可愛がってくれた人なんていない。
そのただ一人の人に嫌われたら、アレクは生きていかれない。レナードがいなかったら、アレクは呼吸をすることだってできない。
「ごめ……なさ……い、あぁっ」
快楽に朦朧としながら、アレクは何度目になるかわからない許しを、レナードに請うた。
「ごめ……なさい。ごめん……なさい……」
ビクビクと下肢を跳ねさせながら、何度も謝る。
許してもらえなかったら、生きていられない。
「あ……ん、ぁぁっ」
「どうしようかな」
レナードの少し苦い口調に、アレクはまた涙を零す。
レナードの指が、濡れそぼって熱く震えるアレクの花芯を握ってくる。
苦しくて、アレクは引き攣った喘ぎを上げた。花芯を握られたことでひくついた肛壁が、レナードの雄芯にクチュと絡みつく。
とたんに、ジンとした痺れが、アレクの背筋を這い上がってくる。
食いしめるように窄まった肛壁から、レナードの脈動が伝わってくる。ドクドクとした熱い脈動は、レナードも感じてくれている証だった。
みっともないアレク。
馬鹿なアレク。
そんなアレクに、レナードが欲情してくれる。
アレクは涙で霞んだ目で、醜い自分を抱いているレナードを見つめようとした。
けれど、眼鏡を外された視界に、レナードの姿はぼんやりとしか見えない。
「許して……レナード……」
アレクはボロボロと涙を零した。
触れることを許してほしい。せめて、アレクに見えるように、もう少し身体を近づけてほしい。
ぼんやりした視界の中で、レナードが下肢を蠢かすのが見える。アレクを責める、レナードの動きだった。
「あ、あ、あ……あぁ、んっ」
花芯を擦られながら、中も雄芯で擦り上げられる。何度もレナードの放出を受け止めた後孔は恥ずかしいほどに濡れ、いやらしい水音をアレクの耳まで響かせる。
これが罰だというのなら、甘く苦しい、甘美な懲罰だった。
「あ、あんっ……あん、ぅぅ……っっ」
強く奥を突かれ、達しそうになったアレクの花芯を、レナードが強く縛めてくる。
いきたいのにいけない、甘苦しさにアレクを泣かせながら、レナードは突き入れた雄芯でアレクの最奥を捏ねるように、腰を揺らしてきた。
「やっ……あ、あぁっ……あ、あんっ……レナ……ド……やぁっっ」
根元を押さえられた花芯。もう片方の手が、アレクの頬を押し包む。
アレクはビクビクと全身をひくつかせながら、レナードに最初に命じられたまま、ベッドに身体を投げ出していた。
人形のようにレナードに自身を捧げ、けして自分からレナードに縋りつかない。
そうしてなされる行為は愛ではなく、欲望だった。
それなのに、甘苦しさの向こうに、レナードの愛を感じる。
愛されているから、甘美な罰なのだ。
「ん、ぁぁっ……っ」
根元を縛めた指に、そろりと先端を撫でられる。
アレクは感じきった声を上げ、下肢を跳ね上げた。そのまま、腰が動くのを止められない。
アレクの下肢の蠢きに、中の雄芯がドクリと成長するのを感じた。
口いっぱいに頬張った雄蕊を、アレクのいやらしい襞が味わうようにしゃぶっている。
恥ずかしい。けれど、やめられない。
だって……。
「んぅ……っ」
いつの間にか動きを止めた雄芯が、アレクの淫らな動きに合わせてゆっくりと成長していくのを感じる。
――ぼくで……感じてる……。
荒く息をつきながら懸命に奉仕すると、レナードが頬を何度も撫でてくれる。
「レナード……レナ……ド、あ、あ、あぁっ」
「いい子だな、アレク。気持ちがいいか?」
レナードがじっと見ている。
それを感じたアレクの身体が、また一度、熱を上げた。
ゆるりと撫でられる先端から、蜜がとろりと盛り上がり、滴り落ちていく。
「気持ち……いぃ……」
アレクにはレナードだけ。
レナードがいなかったら、アレクは死んでしまう。
「レナード……好き……」
アレクの緑の目から、涙がまた流れ落ちた。レナード以外、誰もいらない。
アレクは懸命に、口を開いた。
「好き……。ぼくで……気持ちよくなって……レナード……あ、あぁ、んっ」
言ったとたんに、今まで動きを止めていたレナードに強く肛壁を抉られた。
ふいに、下肢がビクビクとひきつった。
蕩けるような快感が、レナードを咥え込んだ下肢から広がってくる。
両目を見開き、アレクは全身を震わせた。
依然、花芯はレナードに縛められている。
達したのではない。
それとは違う快楽に、アレクの脳髄は犯され、ゆるく長くひくついた。
息ができない。
このままでは、頭がどうかしてしまう。
それでも、アレクはレナードに命じられたまま、両手をベッドに押しつけ、恋しい人にしがみつくのをこらえた。
達した時のように蠕動する後孔を、レナードがゆったりと突いてくる。
頭上から、笑った声が聞こえたような気がした。
「本当にいい子だな、アレク。もしもわたしが、もう一生わたしに触れるなと言ったら、どんなに苦しくても、わたしに触れることを我慢できるか?」
「我慢……する……あ、ん……ぅ」
「わたしがこうして押さえる代わりに、自分で縛めろと言っても?」
「す……る……んっ」
アレクは震える指を伸ばし、レナードに代わって自らの花芯を握った。
蕩けそうで、今にも蜜が零れ落ちそうで、それを懸命にこらえる。
両足を大きく開き、自ら花芯を握る様は、どれだけ無様に映っているだろう。
せめて自分が、瑞樹やエリクのように美しい少年だったらよかったのに。
艶のないパサパサの赤毛も、そばかすの散った顔も醜い以外に形容しようがない。
けれど、どれだけみっともなくても、レナードが命じるのなら、アレクはどんな恥ずかしいことだってできる。
レナードに嫌われたくない。見捨てられたくない。許されるためだったら、どんなことでもする。
ゆったりと中を抉られる苦しさを、アレクは泣きながら花芯を押さえ、こらえた。
レナードがアレクのすべてだった。
「レナードが……好きなだけ……して。ぼく……レナードが我慢しろって言うなら……ずっとだって……我慢する。イくなっていうなら……イかない。だから……だから……許して……ひっく……怒ら……ない、で……あ、あぁ、んっ」
両手で花芯を握りしめ、アレクは必死に訴えた。どれだけ訴えても足りないと思った。
「怒らないで……ん……っく」
小刻みに奥を突かれ、達しそうになるのを懸命にこらえる。
両手がブルブルと震え、呼吸ができなくて、アレクは喉を引き攣らせて小刻みに息を吸った。
それでも、命じられたまま、花芯を握る手を緩めない。
「……馬鹿だな」
呟く声に、また涙が溢れる。
花芯を握りしめる指を、そっとレナードに外された。
「レナ……ド……」
「怒ってなどいない」
「……ぁ」
チュッとキスされる。
そのまま、唇を触れ合わせる位置で、レナードがアレクを見つめ、苦くため息をついた。
「怒ってなどいない。ただ……」
「ただ? ……あっ、あぁっ」
胸から腹を撫でられながら、下肢をゆったりと回される。
縛めを失った花芯から、しどけなく蜜が滴りだした。
レナードにギュッと抱きしめられる。
「初めてできた友達におまえを取られそうで、ついカッとなってしまったんだ。お願いだ、アレク。わたしに無断で、誰かに電話をかけたりしないでくれ。おまえに友達ができたのは喜ぶべきことなのに、取られてしまいそうで不安になる。……このままずっと、わたしだけのアレクにしておけたらいいのに」
「レナード……あっ」
たまりかねたように激しく、レナードの動きがゆったりしたものから強いものに変わる。
許されて、アレクはレナードの背に腕を回した。
――レナードが不安? そんな馬鹿な……!
驚きが、しだいに歓喜に変わっていく。
「約束してくれ」
下肢を抉られながらの囁きに、アレクは夢中で頷いた。
「わたしに黙って、誰とも連絡など取らない。電話も、手紙もだ。全部、わたしに話してからにしてくれ」
「約束……する。レナードにだけ……全部……っ、あぁっっ」
抽挿が激しくなり、アレクはレナードにしがみついた。
突き上げられるたびに、濡れそぼった花芯からさらに熱い蜜が滴り落ちる。
「アレク……っっ」
最後に名前を呼ばれて、抱きしめられながら最奥に雄芯を捻じ込まれ、アレクは声にならない叫びを上げて達した。
最奥を、レナードの樹液に熱く濡らされる。
「んっ、ぁ……――っっ!」
頭の中で火花が散り、全身が快楽の塊になってレナードとひとつに混ざり合う。
アレクは背筋を思い切り仰け反らせ、むさぼるようなレナードの口づけを感じながら、意識を失った。
愛されているという幸福感が、アレクの全身を包んでいた。
「もしもし、ミズキ……うん、まあいろいろあってさ……別に絶対電話するなんて約束してないだろ……今は従兄の家にいるんだ……え? ロンドンだよ。だから、休み中はおまえの家に遊びに行けないから……うん……うん……しょうがないだろ。こっちにだって都合があるんだ……うん、じゃあな」
ぶっきらぼうに言い捨て、アレクは受話器を置いた。
リビングのソファの隣には、レナードが座っている。
視線を上げると、レナードがおかしそうに口元を歪めていた。
「わたしには甘えん坊だが、友達には男の子ぶっているんだな」
からかうように言われ、アレクの頬が真っ赤に染まる。
「だって……」
レナードは大好きな人だから。
でも、瑞樹は違う。始まりが始まりであったし、レナードにするようにはできない。つい意地を張ってしまう。
はにかみながら、アレクはそっとレナードの服の裾を握った。
「レナードは……特別だから」
「特別、なに?」
やさしく頬をつつかれる。
アレクは上目遣いにレナードを見上げた。愛しげにアレクを見つめる眼差しに、身体がふわっと蕩ける。
もう絶対、怒らせたくない。あんなに心臓が止まりそうな恐ろしいことは、もう二度といやだ。
「特別……大好きな人だよ。レナードだけ」
だから、怒らないで。
アレクはレナードに甘え、抱きついた。
苦笑する気配がして、レナードがアレクの背に腕を回してくれる。
そのままそっと、背中を撫でられた。
「わたしもだ。おまえだけが、わたしの『特別』だよ」
髪にしっとりと口づけられる。愛情に満ちた、やさしい口づけだった。
顔を上げると、今度は唇にキスされる。
子供の時のような、触れ合わせるだけの軽いキスではない。舌と舌を絡ませる、大人のキスだ。
口づけが解けると、アレクはうっとりと大好きな恋人を見上げた。
家族にも愛されなかったアレクを、小さな頃から愛してくれた人がこうして恋人になっているなんて、自分はなんて幸せな人間なんだろう。もしも運命というものがあるのなら、こんなに素敵な運命はない。
「――レナード、大好き」
「わたしもだ。愛しているよ、可愛いアレク」
チュッチュと、顔中にキスの雨を降らしてくれる。
そのままソファに倒れこんでも、アレクは喜んでレナードの背を抱きしめて、受け止めた。
「なにもかも全部、わたしのものだ」
頬を包まれ、囁かれる。
「全部レナードのものだよ」
答えたアレクに、レナードの目が束の間細められた。
「……そうだな、アレク。きっとそうなる」
「きっと?」
もう全部、とっくにレナードのものなのに。
浮かびかかった疑問は、レナードの愛撫に溶けて消える。
二人だけの素晴らしい夏を、アレクはレナードとともに楽しんだ。
それが、周到に張り巡らされた蜘蛛の糸とも知らないままに――。
* * *
目を閉じ、甘く吐息を震わせるアレクに、レナードはわずかに唇の端を上げた。
今度は時間をかけて、以前よりも慎重に毒を注ぎ込もう。
――誰もおまえを好きになる者などいない。
友人であろうと誰であろうとレナード以外の何者も、アレクの側にいることを赦しはしない。
赤ん坊だったアレクが初めてレナードに笑いかけた時から、アレクはレナードのものであった。
アレクの心の、たとえそれが千分の一であっても、レナード以外の誰も棲まわせはしない。親であっても兄弟であっても許せなかったものを、どうして友人ごときに許せるであろうか。
『おまえは、わたしのために生まれてきたんだよ』
その言葉に、一言半句の偽りもなかった。セント・オールズリー侯爵夫妻や、兄弟たちを遠ざけたように、『友人』とやらも必ず排除してやる。
――なぜならおまえは、わたしのために生まれてきた可愛い伴侶なのだから。
『友人』の偽りをその耳に吹き込んでやったら、アレクはまたどれだけ泣くことだろう。
可愛いアレクの可愛い泣き顔を想像したレナードの情動が、熱く昂る。
隆起した下肢の熱を押しつけられ、甘い鳴き声を上げるアレクを、レナードはうっとりと見下ろした。
「……この夏を全部、わたしのために使ってくれるね?」
「うん……誰にも会わない、あ、んっ」
「そうだな、そのほうがいい。ミズキが本当にアレクを許してくれたのか、わたしも知りたいから」
「……え」
心細そうな顔になるアレクを、レナードは愛しげに抱きしめた。
「アレクが心配なだけだよ」
殊更やさしげに微笑む。
レナードの胸に頬を埋(うず)め、アレクが呟く。
「ミズキ、やっぱりぼくを怒ってるよね……。ぼく……ひどいこといっぱいしたし……」
「仕方がないよ、アレク。自分の身を守るためにしたことなんだ。ミズキもきっとわかってくれる。でも少しだけ、わたしも心配だから……」
いかにも気にかかるように、わずかに眉をひそめる。
「うん……ごめんね、レナード。心配ばっかりかけて」
アレクがしょんぼりとしてレナードを見上げるのを、レナードは抱きしめる腕で守るように囲い込んだ。
「大丈夫だ、アレク。わたしがついている」
「……うん」
甘えて、胸に縋りついてくるアレクの髪に、レナードは満足げに口づけた。
「大丈夫だ。ミズキは怒ってなんかいないよ」
言えば言うほどアレクが不安になることを承知の上で、レナードは囁いた。
怯えて擦り寄る仔猫から巧みに着衣を剥ぎ取り、心よりも身体に、濃厚な愛戯を教え込んでいく。
そう、生まれた最初から、アレクはレナードのものだった。
レナード以外の誰にも、アレクの心を傾けさせはしない。
レナードの愛撫に甘い声を上げだしたアレクに目を細めながら、レナードは楽しげに微笑んだ。
――これは運命だ、アレク。
たとえそれが偽りの運命であっても、レナードの手で偽りは本物になっていく。
誰にも邪魔はさせない。
腕の中の醜く愛しい少年に、レナードはキスと愛撫で所有の刻印を印していった。
唇には、満足げな微笑が刻まれていた。
終わり
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