初めて、アレクはレナードと素肌と素肌で抱き合っていた。
レナードの肌は熱く、下肢の欲望はもっと猛々しかった。
全身に口づけられ、性器にまで口淫を施されて、アレクはかすれた喘ぎをひっきりなしに上げさせられた。
今日は、容易に解放を与えられない。
花芯をトロトロになるまで口と舌で可愛がられた後、レナードの欲望は性器のさらに先にある蕾に移った。
「……あっ」
思いもかけないところを舐められ、アレクは驚いた声を上げる。
しかし、まだ驚愕は始まったばかりだった。
ゆっくりと指を挿入され、アレクはほとんどパニックに陥った。レナードがどうしてそんなところに指を挿れてくるのか、まったくわからない。
「レ、レナード……」
怯えてレナードを呼ぶと、レナードはいつでもアレクをうっとりさせる綺麗な微笑を見せて、アレクにたくさんキスをしてくれた。
キスをしながら、アレクに教えてくれる。
「ここで、アレクはわたしとひとつになるんだよ」
「ひ、ひとつ……ぁっ、んぅ……っ」
身体の中で、レナードの指が後孔を解すように前後に動く。
「繋がるんだ、アレク」
そこまで言われれば、アレクにもどういうことかわかってくる。男同士でも身体を繋げることができるのだと、驚いた。
そして、怖くもあった。
そもそも、今レナードが指で解している部分は、排泄器官であって、男性器を挿入するところではない。
しかも、時折足に触れるレナードの雄芯は、アレクの想像以上に逞しく、猛々しかった。
本当に、レナードが求めることができるのだろうか。
少しずつ指の本数が増やされ、後孔を広げられていく。
恐れを感じながらも、レナードの欲情に濡れた瞳を見ると、アレクは抵抗する意志が消えていった。
――ぼくは、レナードのために生まれてきたんだ。
両親にも兄弟にもいらない子だと扱われ、唯一の友人だと思っていた瑞樹からも、ずっと連絡がないアレクとって、レナードのこの囁きだけが現実の救いだった。
やがて、指が引き抜かれ、代わりに、レナードの雄蕊が押し当てられる。
アレクはのしかかるレナードに縋りついた。
嬉しそうに、レナードの頬に笑みが浮かび上がる。
「可愛いアレク、おまえはわたしだけのものだ。わたしだけの……」
「うん……レナード。ぼくは……レナードだけのものだよ……あ、あぁっ」
熱く猛々しい欲望が、アレクの未通の花を散らしていく。身体を引き裂く熱棒を、アレクは声にならない悲鳴を上げて、受け入れた。
痛み、そして、熱――。
しかし、頭上からレナードの荒い息遣いが聞こえてくると、アレクの強張った身体から力が抜けていく。
「あぁ……アレク」
感極まったレナードの呻きに、引き裂かれているはずのアレクの後孔が柔らかく蕩けた。
レナードが感じてくれている。そのことが、このうえなく嬉しい。
アレクは啜り泣くように息を喘がせながら、レナードをしっかりと抱きしめた。
どんなにいけないことでも、いやらしいことでも、レナードがアレクを望んでくれるなら、どんなことでもできる。
いいや、やってあげたい。
レナードを喜ばせられるのなら、なんでもしたかった。
それがたとえ、社会的には許されないことであっても、アレクはまったくかまわないと思った。
すべてが収まり、やがて漲った欲望に後孔を蹂躙されても、アレクはいやだとは思わなかった。
それどころか、痛みも確かにあるのに、気持ちよさのほうをずっと強く感じてしまう。
本来、男を咥え込む場所ではないところを開かれる痛み、指でじっくりと蕩かされた肛壁を抉られるよさ、そしてなにより、身体の上で快楽に呻くレナードの声が、アレクから苦しみを奪っていた。もっと、もっと、アレクで気持ちよくなってほしい。
アレクは懸命にレナードにしがみつきながら、禁じられた肉欲の深みに溺れていった。
「んっ……レナード……ぁ」
まだ熱の冷めない身体をレナードに抱きしめられ、顔中に口づけられる。
裸のまま抱き合いながら、アレクはレナードと二人、林の秘密の場所に横になっていた。身体の内も外も、レナードでいっぱいになっていた。
「大丈夫か、アレク」
愛しげに、心配そうに、レナードが尋ねてくる。
レナードの逞しい雄蕊を咥え込まされ、ガクガクと揺さぶられた身体は軋んで痛んだが、それよりももっと甘い悦びのほうが勝っている。
アレクはまだ汗ばんでいるレナードの胸に鼻先を寄せ、甘えるように返事した。
「……大丈夫」
「よかった」
髪を、背中を撫でられる。
満たされた充足感に、アレクは満足げな吐息を吐き出した。始める前は、あんなに怖かったのが嘘のようだ。
すべてをレナードのものにされて、アレクの心は久しぶりに穏やかな思いに包まれた。
それから抱き上げられ、小川で身体を綺麗にされる。レナードの欲望に濡れた中をまさぐられた時には、さすがにアレクは抵抗したが、強く阻まれると逃げられない。
「これは、抱いた男の仕事なんだよ」
そんなふうに言われると、男同士の行為すらよく知らなかったアレクは、レナードの言うがままになるしかなかった。
互いに身体を洗い合うと、今度はレナードが持参した昼食を食べる。
いや、食べるというより、食べさせられるというべきかもしれない。
親鳥が雛に餌を与えるように、レナードはアレクの口を開かせ、そっと食べ物を口に入れてくるのだ。
子供のようで、なんだか恥ずかしい。
しかし、楽しそうなレナードに、アレクは頬を赤くして口を開くしかなかった。
紅茶が欲しいと言うと、口移しに与えられる。
なにもかもがひどく甘くて、嬉しかった。
「明日も……いいか?」
受け入れたのは一回だが、初めての身にはダメージが大きい。
身体は痛み、軋んでいたが、アレクは迷わず「うん」と頷いた。
「よかった」
抱きしめられるとそれだけで、なにもかもレナードのいいようにしたくなる。
それに、とアレクは、レナードの胸の中で爪を噛んだ。
「レナードは……いつまでここにいるの?」
アレクよりちょうど十歳年上のレナードは、次兄のクリストファーと違って、もう大学を卒業している。
毎年、アレクの休暇中はできるだけリンカシャーのマナーハウスに戻ってくれているが、それでも、夏季休暇の二ヶ月をここで過ごすことはなかった。
もうすぐ、一週間近く経つ。
セント・オールズリー侯爵家と同じく、事業を営んでいるラングストン伯爵家も、当主たるレナードにそういつまでも休暇を与えることはできないだろう。
アレクとは比べるべくもないほど優秀だったレナードは、大学在学中から家業に加わり、卒業して数年経つ今では立派な後継者として、一族の経営の中枢を担うまでになっていた。
こうして睦み合えるのも、あとわずかしかない。
寂しそうな顔になったアレクを、レナードが膝に抱き上げる。レナードを跨いで、向かい合うように座ったアレクの鼻に、レナードはチュッと軽くキスをした。
「ここにいられるのは、あと二、三日というところだな。だが、おまえさえよければだが、ロンドンに戻る時、一緒に来ないか?」
「……え?」
思いがけない申し出に、アレクはびっくりして目を見開いた。ロンドンに誘われるなんて、初めてのことだ。
レナードは照れくさそうに、目尻を下げた。
「できるだけずっと、アレクと一緒にいたい。ロンドンに連れていっても、わたしは仕事があるからあまり案内はしてやれないし、退屈させてしまうだろうが……わたしはアレクといたい。少しでもたくさん」
「レナード……いいの? 本当に、ぼくも行ってもいいの?」
仕事の邪魔になりはしないかと、アレクは迷った。
だが、レナードは愛しげにアレクを見つめ、大事そうに何度もキスをしてくる。
「来てほしいに決まっている。セント・オールズリーの伯父様も、伯母様も、わたしからお願いすれば、おまえをわたしのところに滞在させてくれるだろう。夏季休暇中ずっと傍にいたいんだ、可愛いアレク」
「嬉しい……ありがとう、レナード。すごく嬉しい」
ずっとレナードと一緒にいられる。
アレクは幸せで眩暈がしそうだった。レナードと身体を繋げることに対する罪悪感も、この幸せの前には霧のように消えていく。
気まずい思いをして屋敷にいることもなく、ずっと大好きなレナードといられるなんて、信じられない喜びだった。
「あ……レナード……」
キスが、深いものに変わっていく。
喜びの絶頂に、アレクは酔いしれていた。
週末に両親が戻ってきたら、早速お願いしてみよう。その時は、レナードも侯爵家に来ると言ってくれた。
アレクは跳ねるような足取りで、屋敷に戻った。弾む心のままに、自分から瑞樹に電話してみる気にもなってくる。
世の中そんなに悪くない。そんな気分になっていた。
いつもはため息をついて開ける玄関を、明るい気持ちで開く。
そうだ、気持ちが萎えないうちに、瑞樹に電話をしよう。そして、来週からはロンドンのレナードの屋敷にいると連絡しよう。
きっとレナードは忙しく、ほとんど夜しか会えないだろうが、毎日レナードの顔が見られると思うだけで、アレクの胸は弾んだ。
部屋に戻る前に電話をしてしまおうと、アレクは受話器のあるリビングの扉を開いた。
その耳に、執事の慇懃な声が聞こえてくる。
「――申し訳ございませんが、アレクサンダー様はお出かけになっております。――はい、承知いたしました、ミズキ様。失礼いたします」
「……ちょっと待って!」
通話を切ろうとした執事を、アレクは慌てて止めた。
しかし、執事はその声を無視し、受話器を置く。
今すぐかけなおさなくては、とアレクは受話器を取ろうとした。
「いけません、アレクサンダー様」
「なに?」
執事が、アレクから受話器を取り上げた。
「グラムスコート伯爵家のアーサー・ミズキ様からのお電話は取り次がないようにと、侯爵様に申し付けられております」
「取り次がないようにって、まさか……」
アレクは愕然と、冷ややかな執事を仰ぎ見た。
もしや、今までにも瑞樹からの電話はきていたのだろうか。
「……ミズキからの電話は、これで何回目なの?」
アレクはギュッと両手を握りしめた。そうしないと、手が震えてしまいそうだった。
執事は慇懃に答えた。
「アレクサンダー様がお戻りになった次の日からでございますから、先ほどのお電話でさて、何回になりますか。今日は午前と併せて二回目になります」
「二回目って……!」
瑞樹は休暇の翌日からアレクに電話をかけてくれていたのだ。しかも、アレクにはずっと取り次いでもらえなかったのに、何度も。
さすがにアレクも怒りを抑えきれなかった。
アレクは執事に、手を差し出した。
「電話を貸して! ミズキにかけるから!」
「いけません、アレクサンダー様」
「……それならいい。他の部屋からかける!」
アレクは叫び、リビングを飛び出そうとした。
しかし、腕を執事に掴まれる。
「放せっ! なにするんだよっ!」
「侯爵様から厳命されております。申し訳ございませんが、夕食のお時間まで、お部屋でお待ちくださいませ」
そう言うと、アレクを引きずるようにして、部屋に連れていこうとする。
「いやだっ! 放せよっ!」
アレクは必死で抵抗した。こんなふうに、屋敷の人間に逆らったのは初めてだ。せっかく瑞樹が電話をしてくれたのに、それを無視するような格好になったのが悔しく、腹が立った。瑞樹はアレクを見捨ててはいなかったのだ。ちゃんと友達でいてくれたのだ。
それなのに、初めてできた友達を切り捨てようとするなんて、ひどすぎる。
「アレクサンダー様、お静かになさいませ。侯爵様にご報告申し上げますよ! あとで侯爵様からお仕置きをされてもよろしいのですか!」
「……っ!」
ビクリ、とアレクの抵抗が止まる。冷ややかな父親の目、無視をされるのか、それとも、手の甲を鞭で叩かれるのか。あるいは、レナードとのロンドン行きを止められるのか。
アレクは唇を噛みしめた。
もしも罰として、レナードとのロンドン行きが許してもらえなかったら。
アレクの手が小刻みに震えだす。瑞樹、レナード……。
アレクは泣き出しそうに、目を閉じた。
――ミズキ……ごめん。
抵抗する力を失ったアレクは、執事に自室に連れていかれた。外から鍵をかけられ、閉じ込められる。当然電話など、かけられない。
アレクは鼻を啜り上げた。
弱虫の自分がいやになる。自分の意思を通すことも、大事な友達を庇うこともできない自分は、本物の弱虫だ。
「レナード……」
アレクはグズグズと泣きだした。こんなアレクを許してくれるのも、わかってくれるのも、レナードだけだった。
レナードだったら、瑞樹に電話をしてはいけないなんて言わないのに……。
「そうだ……」
アレクは顔を上げた。
レナードだったら、瑞樹と電話しても怒らない。きっと許してくれる。
「レナードだったら……」
アレクはグイと涙を拭った。泣いている場合ではない。
なぜだろう。レナードに抱かれて、身体の芯のどこかがしっかりと強くなったように思える。グラグラと揺れて、泣いて、逃げてばかりいた自分に、拠り所になるなにかが生まれたような、そんな気がした。いつもの自分だったらとても考えられないが、今のアレクならなんでもできそうな気持ちだ。
レナードの下に行き、瑞樹に電話をかける。それからずっと、レナードのところにいるのだ。夏季休暇中ずっと、レナードと一緒にいる。どっちも絶対に譲らない。両親にだって、文句は言わせない。
アレクは部屋を見回し、ベッドのシーツを剥ぎ取った。適当な幅に鋏で裂いて、一本の紐にする。それを持って、ベランダに出た。
「高い……」
けれど、もうアレクは意気地なしではない。レナードがいるのだ。
アレクは二階の自室から、手製のロープを使って逃げ出した。
「――レナード様、セント・オールズリー侯爵家のアレクサンダー様がお見えでございます」
執事の声に、レナードは振り向いた。
「アレクが?」
「はい。怪我をしておいでのようですが」
レナードの眉がひそめられる。
外を見ると、夕陽が空を赤く染めていた。こんな時間にいったいどうしたのだろう。
レナードは、足早にアレクの元に向かった。
近づくと、手や足に擦り傷ができているのが見える。
「どうしたんだ、アレク」
「レナード……っ!」
抱きついてきたアレクからは、走ってきたためだろう、汗の匂いがした。
その匂いの甘さに、レナードは獣性を刺激される。しかし、昼間初めて抱いたばかりのこの身体を、再び征服するわけにはいかなかった。
焦らずとも、アレクはレナードのものだった。そうなるように、時間をかけて愛しんできたのだ。
しゃくりあげながら訴えてくるアレクの髪を、レナードはやさしく撫でた。
「可哀想に、アレク。せっかく友達が電話をかけてくれたのに、取り次がないとはひどいな」
「うん……うん、レナード」
どこかで転びでもしたのか、頬が汚れて、涙でまだらに痕がついている。
可愛くてたまらず、レナードは汚れごと頬にキスをした。
途端に、アレクが真っ赤になる。
「あ……ぼく、汚いから……」
「どうして? おまえのどこも、汚いところなどないよ。全部、綺麗だ」
そっと眼鏡を外し、唇にもキスをする。
それから、腕の中に囲い込むように、抱きしめた。
「さあ、シャワーを浴びて、怪我の手当てをしよう。人心地ついたら、お友達に電話をするといい」
にっこりと微笑むと、アレクが恥ずかしそうに頷く。
眼鏡を取られたせいで足取りの覚束ないアレクの手を取り、レナードは浴室に案内した。
――やっぱり、我慢できそうにないな。
昼間、初めて男を教えたばかりの身体に、レナードは服を脱がせるのを手伝うふりをして、ひそやかに熱を灯していった。
浴室で再び、アレクはレナードに抱かれ、瑞樹に連絡することを忘れさせられていった。
続く…
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